ラベル 小話 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 小話 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

1.05.2012

それは幼い日の記憶

「ねぇ、  は木登りが得意だったよね? じゃああの花を取れる?」
村外れの森の中でその少年が指したのは茶色くて細くてそのくせひょろひょろと長いしなやかさの感じられない木の上の方に一輪だけ咲いている黄色い花だった。
その国の殆どの人が着るのと同じ麻のごわついた服を着た訛りの強い少年は俺と特別親しい訳でもなかったが、その時はなぜだか二人だけでそんな場所にいた。
「取れる訳ねぇだろ。木が折れちまう」
「じゃあ僕がやってみるね。目を瞑ってて」
少年はそう言うと木の根元で笑った。
「もう良いよ」
暫くして少年の声がして目を開けると確かに少年の手には黄色い花があり、木の上の花は無くなっていた。

だが、俺は約束を違えてうっすら目を開けて見ていた。俺が目を瞑ったのを確認すると重力など存在いかのようにふわりと宙に浮き、花を取って少年が降りて来る様を。

俺がその後どう応えたのか、少年がどうしたのかは覚えていない。
俺は間もなく一座と共にその国を出て、その国の人がみな飛べたのだと知ったのはずっと後になってからだった。なんとなく隠されたその能力の情報はやがて噂となり争いの種となり、住民は何処かへ消えてしまって国は滅んだ。
もしかしたら今は空の上でこちらの世界を見降ろし笑っているのかもしれない。内緒だよ、と宙に浮きながら。

10.03.2011

――咲き誇る国――





その国ではどの家も事務所も入口の扉に花輪を飾っていた。
「歓迎の印なんだ」
案内役の男は言う。
「みんな競って好きな物を作る。ずっと掛けてる家もあればどんどん変えてく家もある。最近は売ってるのを買う人もあるけど、殆どみんな自分で作るよ」
中華料理屋さんは大きな赤い輪、新婚の家はピンクと黄緑のハート形。あの家は青、こっちは白。あの家は子どもが作るから不格好。
「誇りみたいなもんだからね。この国の人はみんな仲が良い」
君にもあげよう、と男は小さな七色の花輪にヒモを通して私の額に付けた。

7.13.2011

『未来戦争』

「それで君はどうするの?」
何時もの休日。昼下がり。幼馴染の家に集った友人たち。談笑。
「今直ぐ此の部屋を出て行っても良いんだよ」
……だったが家主の爆弾発言により現在残っているのは彼、と僕。


本当にさっきまで何時も通りだった。
彼は学生の中では随分広い下宿に住んでいて学校から近いこともあり友人たちの溜まり場になっていた。マイペースでお調子者で明るくてよく講義をサボってはノートを貸してくれと泣き付いて来ていた。
「実は俺、この国の人間じゃないんだ」
彼の一言。馬鹿騒ぎの中の一言で気に留めたのは近くにいた二人くらいだった。
「へぇ、何処なの?」
此れを訊いたのは僕ではない方の気付いた友人だった。
其の後に続いた言葉が不味かった。


彼は此の国から遠く離れた小さな島国の名前を出した。

家の中が静まり返った。
ひとりふたりと黙って席を立ち、結局残ったのは僕と家主の彼のみ。


其の国は今まさに僕の国と戦争を始め様としている国だった。
現代の戦争に武力による闘争は無い。血も流れなければ人も死なないし建物も壊れない。もしかしたら表立っては無いだけで裏では何人か亡くなっているのかもしれないが其れは一般人の僕には関係の無いことだ。国家予算はかなり食われるがそれは仕方の無いことだろう。
ただ、無用なリンチを避けるために相手の国の人には国外待機が命じられていた。彼もそれで国へ帰るのだという。
「何で言ったんだ」
「まあ、突然引っ越したらみんな心配するでしょ? 暫くは連絡も取れない訳だし。何時戦闘に巻き込まれるか分からないしね。でも、すぐ終わるよ。此の戦争は俺の国の勝ちだ」
彼は自信たっぷりに言った。戦争を始める人はみんなこうなのだろうか。
「スパイか?」
「まあそんなものだね。君や先程まで友人だった人々が通報して護兵が来る頃には俺はもう此の国にいない」
彼は僕の幼馴染で、覚えている限り幼稚園から一緒だった。そんな頃から彼は今を見ていたのだろうか。
「君は通報しないって信じてるよ。俺の国に来るかい? 話を通してあげよう。なんてったって大事な幼馴染だ」
僕にだって家族は居るのだが。戦争になったらそんなことも言っていられなくなるのだろうか。此処で僕が間諜に成ると云う未来はあるのだろうか。無くは無い。しかしそれは少なくとも此の国の、ではない。
「じゃあそろそろ行こうか。君の着替えとか当面必要な物は部屋から取って来ておいたから」
彼はまとめた荷物を見せる。入れ物も僕の旅行鞄だ。
「其れはストーカー行為だ」
「君の為だよ。だって、役だったろう?」
「まだ了承して無い」
「うんと言わせるまでだ」
彼はにっこりと笑った。代返にしろ遊びに行く先にしろ今まで此の笑顔に逆らえたことは、無い。


戦争は直ぐに終わった。
彼の言った通り彼の国の圧勝だった。あれだけ時間を掛けて準備したのだ。まあ納得もいく。彼は戦勝者として国に入り、嘗ての友人たちより高い位置に立った。其処に僕を引きずり上げたのも彼だった。

まあ、誰も僕らのことなんて覚えていないからどうでもいいのだけれど。

7.06.2011

悪人と子どもの対話

世界には悪い人が沢山いて、けど悪い人と同じくらい良い人も沢山いる。
だからみんな過ごしている内に悪い人に嫌なことされて良い人に慰められるんだ。

君は今まで悪い人にしか出会って来なかったんだね。
珍しい。
きっと僕の次には良い人に会うよ。
残念ながら僕は悪い人の方だから。

貴方は良い人だよ。

なんで?

本当に悪い人は自分のこと悪いって言わない。

それは真理だね。
僕の所にも悪く思うなよって言いながら子どもを捨てに来る親が五万といる。

そんなに?

嗚呼、星の数ほどいるね。

……貴方は嘘つきだ。

だって悪い人だもの。
五万の嘘をついてさ、人を担ぐのさ。

7.01.2011

両想い

小さいやつは良いな。
絶対得してるよな。
なんか可愛いし守ってあげなきゃって思わせるし困ってたら助けてもらえるしさ。
いいなー
でもそんなこと言ったらあいつ怒るから言わないんだけど。


大きいやつは良いな。
なんか得してるよな。
高いところのものだってひょいととれるし何でも自分でできるし目立つし威圧感あるじゃん。
いいよなー
でもあいつ気にしてるから言わないんだ。

1.21.2011

無題

「先生、」
僕はノックをした後部屋に入る。其処は相変わらず薄暗くて湿っぽくて埃が舞っていて温かかった。
「先生、食事の時間です」
言った所で聞こえはしない。それでも大義名分の為にその言葉を口に出し僕は部屋の中で本に埋もれている男性の元へと行く。
男性は寝ていた。何日も着替えていないであろう薄手の青系のジャケットはよれよれになっていてシャツには皺が寄っている。彼の細身の体は必要な栄養を彼が摂ろうとしない為に更に細くなり弱弱しくスーツの中に収まっている。読みかけの本の開いたページに眼鏡が乗せられていて彼自身はその横で倒れる様に寝息を立てていた。
彼は自他を問わず食事を嫌がった。なので僕は彼が寝ている間に自分の食事をし、彼に栄養を流しいれた。
「おやすみなさい」
僕が彼の傍を離れた時、彼は恐らく起きていただろうが目を開けようとはしなかった。


僕が彼に会った時、彼は既に『先生』だった。学校の教師ではないが知識が豊富で、請われれば家庭教師の様なこともしていたらしい。彼は知識階級の人間で有名な大学にも通っていたらしい。その時分から変人の名は通っていて、教授と一悶着起こして居れなくなり各地を転々として辺鄙な村に流れて来たということだった。
彼の未完の卒業研究のタイトルは『1698』。
僕は尋ねた。
「何で1698年なんですか。そんな昔のこと。特に大きな出来事も無かったでしょう」
彼は穏やかに笑った。
「理由なんてどうでもいいんだ。僕は調べたいだけなんだから」


こういうのを世間では拉致とか監禁とか言うのだろうか。確かに彼は僕の屋敷に来てから一回も外に出ていないし日の光も浴びていない。食事も休息もまともに取っていないがしかし、それは彼が望まないからであり僕は彼が望むなら普通のパートナーとして生活していくつもりだ。それなのに彼が望んだことはただ一つ、『1698に関する資料を提供すること』。
彼が1698をただの興味から調べている訳ではないことはとっくに分かっている。僕は食事をさせてもらう代わりに彼の望みを叶えているし、彼もそれは納得して満足している筈だ。


なのに、どこで間違ってしまったのだろう。


飢 え が  乾  き   が   止   ま    ら     な     い

1.08.2011

僕は友達。

 村外れに子どもが居た。繰る日も繰る日も同じ所に居た。村人は尋ねた。
「何をしているんだい?」
「友達を待ってるの」
子どもは誰に対しても同じように答えた。繰る日も繰る日も村人たちは通り過ぎた。
或る日旅人が通り掛かった。
「何をしているの?」
「友達を待っているの」
「なんていう名の友達?」
子どもは其の名を口にした。旅人は笑いながら言った。
「なんだ、其れは君の事じゃないか」
その旅人が村を訪れることはなかった。

12.26.2010

Snow Christmas

昨日の私の続きは今日の私じゃないなんてそんなことを考えてた

だって僕がいるからね



バイト帰りの夜の空気は冷たく、隠すことの叶わぬ顔面の体温を奪って行った
ずっと上り坂を自転車で上っていると息が上がり、同時に体温も上がって来る

初めは散り残った木の葉が風に飛ばされているのだと思った
街灯の下で白くなった息を自覚する
さらにはらはらとゴミのようなものは降って来る
風華だと思った
すぐにそれは視界一面の白と化す

朝の暖房が切れた途端の部屋の寒くなり様を思い出す


夏は暑く冬は寒く自然のままに
たとえそれが自分に仇為すものだとしても


降りしきる雪に我慢できずに坂の途中で自転車を止める
街灯に照らされてあとからあとから何かが散る
分厚い手袋を外しても上がった体温が白い物を受け止めることを拒んだ

昼間は決して積もろうとしなかった雪がコンクリートに白い痣を作る
自分の厚手の黒のコートにも白い斑が生まれる
走り出せば雪片が顔にぶつかって来てこそばゆい
雨の日は走る気がしないが雪は別だ


足は冷えて既に感覚が無くコートの下は守られたように暖かい
終わらない夜の様に此のまま冷たい白い布団に入ってしまおうか
と少し本気で考えた

そんなクリスマスの夜


(『終わらない夜』セーラ・L・トムソン作 ロブ・ゴンサルヴェス絵 金原 瑞人訳 ほるぷ出版)

12.19.2010

笑顔は正義。

彼女はよく笑う子だった。

休み時間は絶えず人と話して笑い転げていたし、授業中だろうと楽しいことがあれば声を上げないように堪えながら震えていた。その笑いのつぼを完全に理解できる者はいなかったが取り敢えず彼女が笑いだしたら取り敢えず面白いのだろうと周りも了承した。

その満面の笑みが僕は好きだった。

彼女が自分の気に入っている教師の授業の時は笑い転げなくても笑顔でいることに気付いたのは、今から思うと僕が彼女を常に目で追いかけていたからだった。その後生徒の中にもお気に入りがいて、その人を見つけると彼女の顔に笑顔が広がることを発見した。そしてその中には僕も含まれていた。


そのことが分かったしばらく後、僕は彼女に告白した。断られるとは思っていなかった。
彼女は顔を上げてぱっと笑った後、困ったように目を伏せた。
「私、変わってるって言われるんだけど、それでも良い?」
「君の傍に居れたらそれでいいよ。」
僕らは付き合うことになった。
彼女はとても幸せそうに笑った。


その週の週末デートをすることになった。僕は化粧が好きか嫌いか訊かれ、見たことが無いので見てみたいと言った。宣言通り彼女は薄く化粧をしていて、普段とは違う軽い色合いのワンピースでめかし込んで顔が隠れるほどの大きなつばの白い帽子を被っていた。
「手を繋いでも良い?」
僕は確認を取ると手を取った。彼女は指を絡めてきた。

何となく違和感はあった。

彼女は俯き加減のまま僕のやや後ろを歩いていた。
違和感の正体はすぐに分かった。笑っていないのだ。
普段あんなに笑い上戸の彼女が気に入った物や面白い話に口の端を歪める程度で、声をあげて笑うことも満面の笑みも見せようとしない。
僕は居心地が悪かった。
嫌われているのかとも思ったが手をしっかり握って来る所を見るとそうでもないらしい。

波止場で沈む夕日を見ている彼女の横顔を僕はじっとみていた。
「幻滅した?」
無表情の、笑っていない彼女が此方を向かないまま聞いていた。
肯定すれば彼女を傷つけることになるのだろう。
「そんなことないよ。」
「みんな言うの。いつも笑ってる君の笑顔が好きだって。でもずっと一緒に居て笑い続けることは出来ないわ。笑わない時もあるもの。」
それはそうだろうが今日一日の仕打ちは無いのではないだろうか。数えるほどしか笑っていない。
「普段は無理して笑ってるの?」
「そうでもないけど。笑い続けたい気分になるの。そういうテンションなの。」
そう言えば今日はずいぶんテンションが低い。おかげで僕は随分と居心地の悪い思いをした。
「今日はとても楽しかったわ。本当に。」
そういって彼女は滲み出る様な自然な笑顔を僕に向ける。教室での笑い方とは違う笑いだった。
「ありがとう。」
彼女は僕に何かを言わせる間もなく走って行ってしまった。

月曜に学校であった時なんと言おうか、それとも今すぐメールをした方が良いのだろうな、と僕は寂しくなった手を風が通り抜けるのを感じながら考えていた。

12.18.2010

同じ夜を過ごすなら。

一緒に住んでいると云うのは役得だな、と思うことがたまにある。

彼女は忙しい人で、大抵僕より帰って来るのが遅い。
そして帰って来た時のドアを開ける音でその時の気分が分かるほど分かり易い。というか隠さない。
不機嫌な時や疲れきっている時は分かりにくい声でただいまと呟いたまま何も言わずに寝てしまうが、機嫌の良い時、というより興奮している時は上気した顔で話しかけて来て訊いてもいないのにべらべらとその日あった事を喋りまくる。恐らく黙って聞いてくれるなら相手は誰であっても良いのだと思う。じっと聞いていると嬉しいのか幸せそうに笑いながら話す。
一頻り話して満足するともう十分だと云うように口をつぐんで自分のことを始める。なおも見つめていると曖昧に笑いかけて話題を探そうとする。そうして煩わしそうに眉を顰める。

自分勝手なこと甚だしいと思うのだが僕は幸せそうに笑う彼女の顔を見ているのが好きなので、特に何も言わない。

忙しくしていればいいと思う。悲しみなんて感じないほどに。

9.17.2010

群青の主

鉄格子に飾り窓
磨り硝子の灯り取り

扉の前は何時も水を撒いた様に湿っていて、苔は瑞々しさを失わない。

今日も誰もいない


少女は詰めていた息を吐く。
何時の頃からか此の家の前を通る時、何となくチェックする様になってしまった。

何てこと無いのだ、此の個性的な家が多い町の中では。
それでも何となく、此の商売をしていそうな扉を気にかける。

其れはほんの数秒のこと。
何事も無かったかの様に通り過ぎる。


「そこはねぇ、お料理屋さんなんですよ」


少女は振り向く。
すれ違った二人組。老人に女性が話しかけている。

「それも完全予約制で紹介のある人でないと話しても貰えないとか」

二人はゆっくりと歩いているのにあっという間に少女から遠ざかり声は聞こえなくなった。



少女は引き返しもう一度扉を見る。
中では明かりがついていて人が動く気配がした。

扉がうっすらと開く。

少女が息を詰めて門の陰から見ていると、黒猫が一匹滑り出して来た。
彼は門迄来て少女を見ると、にゃあと鳴いて走り去った。

7.10.2010

葉擦れ心擦れ

なんだか心がざわざわする

此の感覚は知っている
想い人の前にいる時の気もちだ
でも今其の人はいない

落ち着かない
切なくて甘酸っぱくて暫く此のままで居て欲しくなる

幸せの予感   扉を叩く音がする

一人から来る訳ではない
周りの人から来る訳でもない


・・・・・・外?



貴方が近くにいるのか

呼んではいない
其れでもそうだと良いと思う



薄闇の中で風が新緑の葉を翻す