11.01.2011

Under Windy Sky

山の中の家の屋根の上

暗い風の海の底に沈んで

冷たく温かい

森の妖精たちが降りて来る


記憶

10.30.2011

ふと

それは、例えば

寒い朝のキャラメルミルクティとか
雨の日のポタージュスープとか
帰ったらいる家族とか
笑ってる犬の眼とか
手作りの食事とか
沢山の夜の瞬きみたいなものなんだろう


幸福ってやつは



10.03.2011

――咲き誇る国――





その国ではどの家も事務所も入口の扉に花輪を飾っていた。
「歓迎の印なんだ」
案内役の男は言う。
「みんな競って好きな物を作る。ずっと掛けてる家もあればどんどん変えてく家もある。最近は売ってるのを買う人もあるけど、殆どみんな自分で作るよ」
中華料理屋さんは大きな赤い輪、新婚の家はピンクと黄緑のハート形。あの家は青、こっちは白。あの家は子どもが作るから不格好。
「誇りみたいなもんだからね。この国の人はみんな仲が良い」
君にもあげよう、と男は小さな七色の花輪にヒモを通して私の額に付けた。

9.30.2011

(続き。)

握り潰された薬箱


アルコールと笑顔


無駄遣いの電力


夜景



さよならさよならさよならさよなら……


アイシテル。












(僕は今、なんだかとても良い気分だ)

僕らの世界。

























僕らの世界なんだ

それはそれはもうどうしようもないことなんだ


なんて素晴らしいことだろう!

9.11.2011

花を買う日

夕暮れの始まった先斗町を漫ろ歩く
いやに温かい、用を為し始めたばかりの赤提灯

狭い道の脇道の両側に川床の店が並んでいたりする

この空間が好きだと言った人がいた

帰り道に寄った店で手に取った花が手放せなくなりレジへ出す
藤より淡いピンクが混雑したように咲いている

嗚呼

君に何をあげよう

9.05.2011

その笑いはを凄味を孕む

街が闇に沈んだ

僕は屋根に登らなくても夜の底に居る

なんて素敵



ねぇ、先生

熟れた夢が重いよ

9.04.2011

勇者は、

山の向こうの空遠く 幸せ在ると人は言う


信じて山の向こう 行ったなら

貴方きっと泣くでしょう
貴方きっと笑うでしょう

7.13.2011

『未来戦争』

「それで君はどうするの?」
何時もの休日。昼下がり。幼馴染の家に集った友人たち。談笑。
「今直ぐ此の部屋を出て行っても良いんだよ」
……だったが家主の爆弾発言により現在残っているのは彼、と僕。


本当にさっきまで何時も通りだった。
彼は学生の中では随分広い下宿に住んでいて学校から近いこともあり友人たちの溜まり場になっていた。マイペースでお調子者で明るくてよく講義をサボってはノートを貸してくれと泣き付いて来ていた。
「実は俺、この国の人間じゃないんだ」
彼の一言。馬鹿騒ぎの中の一言で気に留めたのは近くにいた二人くらいだった。
「へぇ、何処なの?」
此れを訊いたのは僕ではない方の気付いた友人だった。
其の後に続いた言葉が不味かった。


彼は此の国から遠く離れた小さな島国の名前を出した。

家の中が静まり返った。
ひとりふたりと黙って席を立ち、結局残ったのは僕と家主の彼のみ。


其の国は今まさに僕の国と戦争を始め様としている国だった。
現代の戦争に武力による闘争は無い。血も流れなければ人も死なないし建物も壊れない。もしかしたら表立っては無いだけで裏では何人か亡くなっているのかもしれないが其れは一般人の僕には関係の無いことだ。国家予算はかなり食われるがそれは仕方の無いことだろう。
ただ、無用なリンチを避けるために相手の国の人には国外待機が命じられていた。彼もそれで国へ帰るのだという。
「何で言ったんだ」
「まあ、突然引っ越したらみんな心配するでしょ? 暫くは連絡も取れない訳だし。何時戦闘に巻き込まれるか分からないしね。でも、すぐ終わるよ。此の戦争は俺の国の勝ちだ」
彼は自信たっぷりに言った。戦争を始める人はみんなこうなのだろうか。
「スパイか?」
「まあそんなものだね。君や先程まで友人だった人々が通報して護兵が来る頃には俺はもう此の国にいない」
彼は僕の幼馴染で、覚えている限り幼稚園から一緒だった。そんな頃から彼は今を見ていたのだろうか。
「君は通報しないって信じてるよ。俺の国に来るかい? 話を通してあげよう。なんてったって大事な幼馴染だ」
僕にだって家族は居るのだが。戦争になったらそんなことも言っていられなくなるのだろうか。此処で僕が間諜に成ると云う未来はあるのだろうか。無くは無い。しかしそれは少なくとも此の国の、ではない。
「じゃあそろそろ行こうか。君の着替えとか当面必要な物は部屋から取って来ておいたから」
彼はまとめた荷物を見せる。入れ物も僕の旅行鞄だ。
「其れはストーカー行為だ」
「君の為だよ。だって、役だったろう?」
「まだ了承して無い」
「うんと言わせるまでだ」
彼はにっこりと笑った。代返にしろ遊びに行く先にしろ今まで此の笑顔に逆らえたことは、無い。


戦争は直ぐに終わった。
彼の言った通り彼の国の圧勝だった。あれだけ時間を掛けて準備したのだ。まあ納得もいく。彼は戦勝者として国に入り、嘗ての友人たちより高い位置に立った。其処に僕を引きずり上げたのも彼だった。

まあ、誰も僕らのことなんて覚えていないからどうでもいいのだけれど。

7.10.2011

夏空


自分で書いた空の国に吸い込まれそうだよ


ツユアケノツユクサ

詰まるところ、私は貴方からの便りをずっとずっと待っているのです

糸電話の先は切れたまま彷徨って

六月の終わりは切手を貼り忘れた手紙を投函しました

7.06.2011

悪人と子どもの対話

世界には悪い人が沢山いて、けど悪い人と同じくらい良い人も沢山いる。
だからみんな過ごしている内に悪い人に嫌なことされて良い人に慰められるんだ。

君は今まで悪い人にしか出会って来なかったんだね。
珍しい。
きっと僕の次には良い人に会うよ。
残念ながら僕は悪い人の方だから。

貴方は良い人だよ。

なんで?

本当に悪い人は自分のこと悪いって言わない。

それは真理だね。
僕の所にも悪く思うなよって言いながら子どもを捨てに来る親が五万といる。

そんなに?

嗚呼、星の数ほどいるね。

……貴方は嘘つきだ。

だって悪い人だもの。
五万の嘘をついてさ、人を担ぐのさ。

7.01.2011

両想い

小さいやつは良いな。
絶対得してるよな。
なんか可愛いし守ってあげなきゃって思わせるし困ってたら助けてもらえるしさ。
いいなー
でもそんなこと言ったらあいつ怒るから言わないんだけど。


大きいやつは良いな。
なんか得してるよな。
高いところのものだってひょいととれるし何でも自分でできるし目立つし威圧感あるじゃん。
いいよなー
でもあいつ気にしてるから言わないんだ。

6.06.2011

緑(仮)

道路沿いに赤紫色のアザミがぽんぽんと玩具の花の様にずっと咲き続けていた。
その間を大きな黒い蝶が独りで彷徨っている。


この先はどうなっているのか気になる道があった。
何キロも何キロも一人で山の中の道を歩いていたら、町に出た時その町並みが人の多さが触れ合いが嬉しくなるだろう。
とてもとても楽しいだろう。

でもきっとまた山の中へ続く道を歩きたくなる。

鍬で掘り返した雑草の根を集めながら、こうやって僕の人生は終わっていくのかと思った。
スリリングな出来事も無く昨日も今日も明日も緩やかに動いて行く世界の中で終わらない仕事をし続ける。
これなら都会に居た方が刺激的だった。
毎日イベントがあって予定帳は埋まって食べ物は買って手に入れる物だった。
もしかしたら終わりはどちらも目に見えず匂いもしない放射線で数十年後に与えられるのかもしれない。

同じ鍬で田んぼの畦を作っていたら無心になった。
心が澄めば目も良く見える。遠くの山まで緑だった。
田に入ってくる水は冷たかった。

水には化学物質の匂いがうつっていた。

4.27.2011

月の番人

月番とは月替わりの当番のことらしい

月番が月の番人だったら良いのに



透明な階段を

群青や紺碧の空に上っていく 手摺の無い踏み段だけの階段を

其の先には金色の月がある

暗闇の中に浮かぶ扉がある

其の先にはきっと 尖った耳の紅い目の番人が居る

道に迷った魂の話を聞いている



嗚呼

今宵も月が出ている

僕は貴方に捧げる音を持たないから せめてこうして眺めて居よう

望月も上弦も夕方も明け方も貴方を眺めて居よう

今夜は朧月夜だ 桜宵に相応しい

此処に守りが居るよ 月に魅せられた

ゆめまぼろしに月をみるよ

貴方を想ってる

3.21.2011

I:夢に描いた南の島は

ここでは1年中雨が降っている

吹き止まない風が絶えずヤシの葉を揺らしロッジの中で眠る人々の髪を揺らし波を揺らし
竹壁に潮の波抹を吹き付ける


クイナの走る屋根には絶えずぱらぱらと花が零れ
在る筈のない滝音や打ち寄せない波の音やアルコールランプの明かりが
夜より明るい闇の中で何時だって雨を降らす


気付くと犬が横で丸まっていた
今日は雨か
起きたくないな


幻の雨に打たれて島人の代わりに
ウィリーギックスは腕を動かし続ける




※ウィリーギックス
クラフトの一種。木製の風車で羽根が回ると連結した人形の腕が動く細工がしてある。

II:無題

私は何時だってノートを持ち歩く

ノートの中に生まれたたくさんの僕が暗い沼での
僕の宿り木

けれど

この島に僕は必要ない

私は大事にしまい込んだノートを、
忘れてしまっている感情を

戻る日の為に取っている
誰にも触らせず見せず存在すら知られぬよう


まるで大切な物であるかの様に

III:ロッジA

ロッジA


貝殻を拾って字を書いて



僕は自分の存在意義にないた

IV:見つけた。僕の宝物

人はそれを見ても何も思わないけれど
私はそれらに意味付ける為に

今は

ラウイスの教会に行くより
其処で見ている子と遊ぶより

彼の詩集のページを繰る

V:そして其れを指輪にした

毎夜毎夜星降る木で1人でダブルダッチをしていたら
蒼く輝く水の中でキミは
スカシカシパンになっていた

VI:遥かな夢

実感がない


でも

全ては其処にあって
全ては其処にあって
私は此処にあって

僕は
海を渡る  風の神

VII:闇を切る白い船の先で思ったの

星が沢山見えたって黒闇の中に居たって僕は奏でるべき音楽も歌うべき唄ももっていない

IIX:銀河鉄道の旅

南十字星が見えて
北斗七星が見えて
波はひたひたと打ち寄せて
バー・帆先
此処は世界の中心



(水はなんて平らなんだろう)

IX:無題

水の上は平らだなんてそんなのは噓だ

地面の上に道があるように
人は
風にも海にも通る道を決めていて

道路に凹凸があるように
そこにも凸凹があって

それで僕らは喜んだり不満を言ったりする

X:其れだけで僕は君の虜

君はその幸福の島で
何時だって哀しそうな眼をしていた
次の朝帰ると云うに日になって昨日語り合った子に手紙を貰っても
心は何処かうわの空


嗚呼その心を摑めたなら
哀しい目が僕を見たなら


熱を持った日焼けの跡が
サキ・バーに行く前の存在を主張する

XI:其れは酷い痛みと共に

繰り返す   浅い眠り



繰り返す   カオハガンの夢



やがて    現実,失望



溢れ出す       涙






(その夜私は浄化の為に泣かなければいけない夢を見た。高熱に魘され理解不能な言葉を話して泣いていたらしい)

1.21.2011

無題

「先生、」
僕はノックをした後部屋に入る。其処は相変わらず薄暗くて湿っぽくて埃が舞っていて温かかった。
「先生、食事の時間です」
言った所で聞こえはしない。それでも大義名分の為にその言葉を口に出し僕は部屋の中で本に埋もれている男性の元へと行く。
男性は寝ていた。何日も着替えていないであろう薄手の青系のジャケットはよれよれになっていてシャツには皺が寄っている。彼の細身の体は必要な栄養を彼が摂ろうとしない為に更に細くなり弱弱しくスーツの中に収まっている。読みかけの本の開いたページに眼鏡が乗せられていて彼自身はその横で倒れる様に寝息を立てていた。
彼は自他を問わず食事を嫌がった。なので僕は彼が寝ている間に自分の食事をし、彼に栄養を流しいれた。
「おやすみなさい」
僕が彼の傍を離れた時、彼は恐らく起きていただろうが目を開けようとはしなかった。


僕が彼に会った時、彼は既に『先生』だった。学校の教師ではないが知識が豊富で、請われれば家庭教師の様なこともしていたらしい。彼は知識階級の人間で有名な大学にも通っていたらしい。その時分から変人の名は通っていて、教授と一悶着起こして居れなくなり各地を転々として辺鄙な村に流れて来たということだった。
彼の未完の卒業研究のタイトルは『1698』。
僕は尋ねた。
「何で1698年なんですか。そんな昔のこと。特に大きな出来事も無かったでしょう」
彼は穏やかに笑った。
「理由なんてどうでもいいんだ。僕は調べたいだけなんだから」


こういうのを世間では拉致とか監禁とか言うのだろうか。確かに彼は僕の屋敷に来てから一回も外に出ていないし日の光も浴びていない。食事も休息もまともに取っていないがしかし、それは彼が望まないからであり僕は彼が望むなら普通のパートナーとして生活していくつもりだ。それなのに彼が望んだことはただ一つ、『1698に関する資料を提供すること』。
彼が1698をただの興味から調べている訳ではないことはとっくに分かっている。僕は食事をさせてもらう代わりに彼の望みを叶えているし、彼もそれは納得して満足している筈だ。


なのに、どこで間違ってしまったのだろう。


飢 え が  乾  き   が   止   ま    ら     な     い

1.08.2011

僕は友達。

 村外れに子どもが居た。繰る日も繰る日も同じ所に居た。村人は尋ねた。
「何をしているんだい?」
「友達を待ってるの」
子どもは誰に対しても同じように答えた。繰る日も繰る日も村人たちは通り過ぎた。
或る日旅人が通り掛かった。
「何をしているの?」
「友達を待っているの」
「なんていう名の友達?」
子どもは其の名を口にした。旅人は笑いながら言った。
「なんだ、其れは君の事じゃないか」
その旅人が村を訪れることはなかった。