「それで君はどうするの?」
何時もの休日。昼下がり。幼馴染の家に集った友人たち。談笑。
「今直ぐ此の部屋を出て行っても良いんだよ」
……だったが家主の爆弾発言により現在残っているのは彼、と僕。
本当にさっきまで何時も通りだった。
彼は学生の中では随分広い下宿に住んでいて学校から近いこともあり友人たちの溜まり場になっていた。マイペースでお調子者で明るくてよく講義をサボってはノートを貸してくれと泣き付いて来ていた。
「実は俺、この国の人間じゃないんだ」
彼の一言。馬鹿騒ぎの中の一言で気に留めたのは近くにいた二人くらいだった。
「へぇ、何処なの?」
此れを訊いたのは僕ではない方の気付いた友人だった。
其の後に続いた言葉が不味かった。
彼は此の国から遠く離れた小さな島国の名前を出した。
家の中が静まり返った。
ひとりふたりと黙って席を立ち、結局残ったのは僕と家主の彼のみ。
其の国は今まさに僕の国と戦争を始め様としている国だった。
現代の戦争に武力による闘争は無い。血も流れなければ人も死なないし建物も壊れない。もしかしたら表立っては無いだけで裏では何人か亡くなっているのかもしれないが其れは一般人の僕には関係の無いことだ。国家予算はかなり食われるがそれは仕方の無いことだろう。
ただ、無用なリンチを避けるために相手の国の人には国外待機が命じられていた。彼もそれで国へ帰るのだという。
「何で言ったんだ」
「まあ、突然引っ越したらみんな心配するでしょ? 暫くは連絡も取れない訳だし。何時戦闘に巻き込まれるか分からないしね。でも、すぐ終わるよ。此の戦争は俺の国の勝ちだ」
彼は自信たっぷりに言った。戦争を始める人はみんなこうなのだろうか。
「スパイか?」
「まあそんなものだね。君や先程まで友人だった人々が通報して護兵が来る頃には俺はもう此の国にいない」
彼は僕の幼馴染で、覚えている限り幼稚園から一緒だった。そんな頃から彼は今を見ていたのだろうか。
「君は通報しないって信じてるよ。俺の国に来るかい? 話を通してあげよう。なんてったって大事な幼馴染だ」
僕にだって家族は居るのだが。戦争になったらそんなことも言っていられなくなるのだろうか。此処で僕が間諜に成ると云う未来はあるのだろうか。無くは無い。しかしそれは少なくとも此の国の、ではない。
「じゃあそろそろ行こうか。君の着替えとか当面必要な物は部屋から取って来ておいたから」
彼はまとめた荷物を見せる。入れ物も僕の旅行鞄だ。
「其れはストーカー行為だ」
「君の為だよ。だって、役だったろう?」
「まだ了承して無い」
「うんと言わせるまでだ」
彼はにっこりと笑った。代返にしろ遊びに行く先にしろ今まで此の笑顔に逆らえたことは、無い。
戦争は直ぐに終わった。
彼の言った通り彼の国の圧勝だった。あれだけ時間を掛けて準備したのだ。まあ納得もいく。彼は戦勝者として国に入り、嘗ての友人たちより高い位置に立った。其処に僕を引きずり上げたのも彼だった。
まあ、誰も僕らのことなんて覚えていないからどうでもいいのだけれど。
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