貴方との間に分厚い透明な壁が確かに見えて
僕は
泣くことすらできないまま
「音」を
聴こうとしていました
その帰り道
ふと寄ったスーパーで重い物ばかり買ってしまって僕はこんなにマゾだったかしら
代金が今日の電車賃より帰りのタクシー代より軽くて
今度は
少し泣きたくなりました
言いたいこと
も
書きたいこと
も
たくさんあったはずなのに全部忘れ去ってしまって
本気で悔しがることすらできないくらい大人になった自分を恨めしく思う
貴方は
貴方達はみんな
嘘吐きだから
前にも言ったことあるけど
僕は静かなロックのライブが好きなんだ
爆音の中無表情で立ち尽くして自分のことや未来のことや社会のことについて深く深く考えて
悩みが消えていく
音
ステージが近過ぎてせまってくる音を抱え損ねた
貴方との間に越えられない壁があって手を伸ばせば届く距離も引けば絞まるコードも拒絶感を増しただけ
僕はシャットアウトしたままです
本当に好きなものを好きだと言える世界だと良い本当に好きなものが分からないなら見つかるまで探していられる世界だと良い
貴方の曲を聞きながらそんなことを思った
曲、だった
詩
ではなく
それから洗面台に刷毛と歯ブラシが同居している美大の友人の詩をよもうと思った、なぜか
左手のスーパー袋はやっぱり重くて
流れていく言葉も音も何時か思い出したようにいきいきと蘇ってきて今は忘れ去って本気で悔しがれば良い
なんて思い切ることもできず
「心の柔らかい部分で聴いていって」
という言葉で固くなったガードのすきまからも裏側からも声が届かなくて
いつか分かる時がくるでしょう
ライブ音源が欲しいと思った
貴方が今まで出した詩集もCDも全部集めて暗記しても貴方は流れていってしまうから
今を切り取って変えてしまうから
いつまで経っても追い着けない
それでいい
ううん 追い駆けようとすらしてない
「次はどうやって愛すの?」
「僕たちはなんだかすべて忘れてしまって」
終わり、という音に魅かれる
エンドロールという言葉が好きだ
「失くしたことに人心地ついてまた『安心』を買う」
人はみんな終わりに向かって生きています 産まれ落ちたその瞬間から
死
に向かって生き続けています
真夏のエンドロールはとっくに流れ去ってしまって夏のエンドロールすらもう流れていない
貴方の書く詩が詠む詩があの詩のベクトルのままなら愛し続ける自信があるんだ
じゃあ貴方が変わってしまったら?
僕は貴方を好きでなくなるのだろう
か
圧倒的な大音量 響くことすら拒否してコーラスが入る
フリーズ
シャットアウト
強制終了致します
Yes or No ?
―強制終了します
貴方の声が聞こえない
笑っているの?
息ができない それでも
せめてこの夜は貴方に捧げようって思ったんだ