鉄格子に飾り窓
磨り硝子の灯り取り
扉の前は何時も水を撒いた様に湿っていて、苔は瑞々しさを失わない。
今日も誰もいない
少女は詰めていた息を吐く。
何時の頃からか此の家の前を通る時、何となくチェックする様になってしまった。
何てこと無いのだ、此の個性的な家が多い町の中では。
それでも何となく、此の商売をしていそうな扉を気にかける。
其れはほんの数秒のこと。
何事も無かったかの様に通り過ぎる。
「そこはねぇ、お料理屋さんなんですよ」
少女は振り向く。
すれ違った二人組。老人に女性が話しかけている。
「それも完全予約制で紹介のある人でないと話しても貰えないとか」
二人はゆっくりと歩いているのにあっという間に少女から遠ざかり声は聞こえなくなった。
少女は引き返しもう一度扉を見る。
中では明かりがついていて人が動く気配がした。
扉がうっすらと開く。
少女が息を詰めて門の陰から見ていると、黒猫が一匹滑り出して来た。
彼は門迄来て少女を見ると、にゃあと鳴いて走り去った。